醸造家 後藤実和 修行終了と「千実」の新たな挑戦について

この度、弊社の醸造家 後藤 実和 は、約6カ月にわたる山忠本家酒造株式会社での修行を2025年2月28日(金)をもって終了いたしました。これもひとえに、皆様の温かいご支援の賜物と深く感謝申し上げます。

この6カ月間、後藤は酒造りにおける基本の徹底と応用の可能性を見つめ直し、伝統と革新の両面を学ぶ機会を得ました。

微細な管理による発酵のコントロール、麹菌の力を引き出した力強い麹づくり、何のために何をするのか、しないのかを徹底的に突き詰めるぶれない考え方、支え合い補い合って酒造りに向き合う「チーム義侠」の姿。

この中で、追い回しから始め基礎を固めることで酒造りの奥深さに改めて向き合う時間となりました。ここでの学びを経て、今後の「千実」においては、表現したいものに対して目的思考を徹底したアプローチで向き合い、輪郭があるより一層繊細な味わいの酒造りを目指していく所存です。

そして2025年3月は、山崎合資会社にて「千実」の仕込みをさせて頂き、製造に繋がる新たな知見や経験を積んで参ります。今回の「千実」は、初めて「10号酵母」を使用する酒造りに挑戦いたします。

10号酵母は、近年では吟醸造りに活用される機会が増えていますが、酵母の持つ柔らかな甘い香りや、米由来の旨みの膨らみをどう表現できるかが鍵となります。酵母の個性だけに頼るのではなく、麹づくりや発酵管理とのバランスを突き詰め、「千実」ならではの輪郭を持たせた酒質へと仕上げることが私たちの挑戦です。

また、山崎合資会社との共同醸造では、異なる視点や技術の交流が重要な要素となります。これまでの「千実」の蓄積と、山崎合資会社が培ってきたご経験を融合させることで、新しい可能性が生まれます。

目指すのは、ひとくちのインパクトではなく、穏やかに広がり、静かに印象を刻む酒。そのためには、ひとつひとつの工程を丁寧に積み重ね、微細な要素の変化を拾い調整していくことが不可欠です。

今回の仕込みは、単に新酵母の採用ではなく、「千実」のさらなる深化を目指す試みです。味わいの奥行きと余韻の繊細さ、口に含んだときの移ろいゆく表情、それらの要素を分解して設計することで、「千実」ならではの個性を確立させてゆきたいと考えております。

今後の進捗については、皆様にも随時ご報告させていただきます。試験醸造の結果や味わいの変化、熟成過程での気づきなど、より深くお伝えできるよう準備を進めてまいります。

引き続き、「千実」シリーズへの変わらぬご愛顧を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

水谷酒造株式会社
代表取締役 水谷 政夫
専務取締役 立松 豊大
醸造家 後藤 実和